モグラボラトリ日誌

森薫のウェブ・サイト「モグラボラトリ」のブログ&コラムです。

【ブログ&コラム】Jimmy Greene ”Beautiful Life”

最近このアルバムを聴いている。

 

ジミー・グリーン(Jimmy Greene)というジャズ・サックス奏者の2014年のアルバム。2012年12月14日に起こったサンディフック小学校銃撃事件によって娘さんのアナ・グレースを亡くしたグリーンが、その娘さんにささげたものである。そういうアルバムがあることは知っていたが、最近になって、ふと聴きはじめた。

事件は衝撃的なもので、本当に言葉を失うような出来事。その事件で亡くなった娘に音楽をおくるということは、音楽に特別な、特別過ぎるともいえる意味がもたらされることでもある。もしかしたらグリーン自身も躊躇したかもしれない。しかしそうやって作品にすることが、彼にとって、ご家族にとって必要だったのかもしれないとも思う。Wikiをみると、ニューヨークタイムズのレビュアーNate Chinen がこのアルバムについて、「歌の中に静かなレジリエンスがある」と表現したという。まさにそうしたものを感じる。

聴き手にできることは、聴くこと、考えること、憶えていること。

1曲目にはアナ・グレース自身による歌声が入っており、ご兄弟かなと思しき名前の人がピアノを弾いてもいる。全編をとおしてシンプルな曲が多く(彼のほかのアルバムには比較的コンテンポラリーで複雑な曲が多い)、そのことについても思いを馳せてしまう。

3曲目の”When I come home”は、グリーンの別のアルバム”Live at Smalls”に収録されているバラード曲”Home”をヴォーカル曲にアレンジしたもので、これが特に印象に残った。繰り返し聴いている。キーは変えないまま、ストリングス・イントロのバラードになっている。歌っているのはハヴィエル・コロン(Javier Colon、読み方間違っているかも)という歌手。ジャズの人ではないようだ。みずみずしく伸びのある声で、シンプルな内容をまっすぐ歌っていて、とてもよい。テンポもそれほど変えず、バラードのまま、原曲以上に美しいリアレンジと演奏をしているグリーンの手腕に感動した。その感動が、他のさまざまな感情よりもつよく残ることが、このアルバムの素晴らしさだと思う。