モグラボラトリ日誌

森薫のウェブ・サイト「モグラボラトリ」のブログ&コラムです。

【ブログ&コラム】他人の日記は蜜の味

誰かの日記をまとめた書籍が好きだ。他人の日常を覗く背徳感。公刊してくれているのだから、堂々と読んでいいものだし実際堂々と読むのだが、日記は本来他人に見せるためのものではないので、やはりちょっと、悪いことをしている気分になる。それがいい。

というわけで、最近これを買った。

 

特集が「創る人52人の「激動2017」日記リレー」というもので、作家や芸術家、映画監督等の日記1人あたり1週間分が、合計で1年分収められている。1人1週間なのですぐ終わってしまうが、パスタをつくって食べた、とか、〇〇の本を10頁くらい読んだ、とか、個人名が下の名前で出てきて説明もされていなかったりとかして、他人の日記を読む愉しみがちゃんとある。

私は、映画監督や劇作家の人の日記が好きなようだ。自分の日常を俯瞰で見ている感じがいいのかも。まだ出だししか読んでいないので、今抱えている仕事がひと段落したら、続きを読むつもり。

そういえば多くの人が何らかのかたちで安倍首相に触れている。

 

他人の日記を読む愉しみシリーズだと、近年はこれも面白かった。

バンド「クリープハイプ」のボーカルの人が書いた日記。新曲をつくる過程を中心に、かなり生々しく日々の気持ちを書いている。産みの苦しみ、ライブMCがうまくいったかいかないか、他バンドへの妬み嫉みや、かつての知人に対する落胆なども。結構感情移入しながら一気読みしたので、女の子とデートしたという文を読んだときには、「はープライベートを楽しんでいてよかったよ〜」、「やるやん、このこの~♪」みたいな謎のなれなれしい感情を抱いた。読み終えた後、バンドの曲も聴いた。「イト」「鬼」今も結構好きな曲(どっちもシングル曲、ニワカもニワカですみません)。

 

こちらは、日記だけでなくエッセイや手紙も含んだ、〆切にまつわる文章を集めた本。何かと〆切に追われる人間(今も…)にとっては、こんな文豪も、あんな売れっ子作家もみんな苦しんでるんだ!という気持ちになれて楽しい。つらつらつらつら、異常な語彙力・表現力でもって言い訳をつづっている明治~大正期の小説家たち(読んでから時間が経ってしまい個人名が出てこない)には、さすがに「これ手書きで書くくらいなら原稿やればいいのに」と私でも思ってしまう。そのいびつさを、愛さずにはいられない。

 

ちなみに、シャーロック・ホームズのシリーズや村上春樹の作品も、他人の日記を読む愉しみの要素を多分に含んでいると思っている。ホームズがソファに腰かけながらワトソンと喋っているところの描写とか、村上春樹作品の主人公が朝ごはんをつくって食べて掃除しているところの描写とかに漂う、日常感。何でもない、ある一日のなかの、ある時間の流れの描写。謎解きや冒険のはざまにあるそういうシーンを読んでいると、小気味の良さをおぼえる。